ジブリ作品の中で海を舞台にしたミステリアスな作品といえば、『崖の上のポニョ』です。この作品にはポニョを始めとしたキャラの濃い登場人物が多くそろっており、中でも『フジモト』と呼ばれる人物の背景が気になります。そこで今回は、このフジモトにスポットを当ててみます。
目次
『崖の上のポニョ』フジモトはどんな人?
『崖の上のポニョ』に登場する人物の中でも、どこかエキセントリックともいえる見た目とキャラで際立った存在感を放っているのが「フジモト」です。
フジモトは物語の冒頭から登場し、その後も物語のキーマンとして描かれています。ストライプ柄のジャケットにオレンジ色の髪が印象的なフジモトはどんな人物なのか、チェックしてみましょう。
ポニョのお父さん
フジモトは実は『崖の上のポニョ』の主人公であるポニョのお父さんです。あまり父親らしさがなく、どこかポニョには恐れられている設定の人物ですが、「海なる母」と呼ばれているグランマンマーレの夫です。
元々は人間だったのですが、ノーチラス号という潜水艦に乗っていたときにポニョの母であるグランマンマーレと出会って恋に落ち、2人は結ばれました。以後、人間をやめ、海の眷属(けんぞく)、そして魔法使いとして生きる道を選んだのです。
不審者と勘違いされる見た目
フジモトはまずその見た目が奇想天外な印象を与え、劇中では不審者と勘違いされるシーンもあります。わが子であるポニョと同じくオレンジ色の髪色、そして目の下には青く、鼻筋はすっと通っており、頬には影のようなチークが施されています。
全体的に細身で身長はすらりとした印象です。白と青のストライプ柄のスーツにピンクのスカーフを首元にあしらっており、日本人離れしたファッションセンスをうかがわせています。
魔法使いということで、時にはえんじ色のマントを羽織っていることもあります。シワっぽい顔立ちを見ると、かなりの高齢ではという説もあり、見た目も含め、謎に包まれた部分の多い人物です。
声優は所ジョージ
『崖の上のポニョ』の中でも際立った個性を持つフジモトの声を演じているのは、数多くのバラエティ番組などで司会をしている所ジョージです。
実は『トイ・ストーリー』シリーズを始めとした、数々のアニメで声優として出演した経験もある所ジョージですが、ジブリ作品はこの『崖の上のポニョ』が初出演となっています。
フジモトの怪しい雰囲気と、ポニョのことを過剰に心配する父親としての一面をうまく声で表現しています。所ジョージ自身、二女の父でもあるので、父親としての心配性な部分は共感できるものがあったのかもしれません。
『崖の上のポニョ』フジモトのモデルや名前の由来
一部のファンによると、フジモトはTHE YELLOW MONKEYのボーカリスト、ギタリストである吉井和哉をモデルにしているのではと言われています。
実際に写真を見比べると、雰囲気は似ているかもしれません。しかし実際は『崖の上のポニョ』の作画監督および主題歌の作詞を務めた近藤勝也氏がモデルということです。
さらにポニョ自身はこの近藤勝也氏の娘さんをモデルにしているそうで、宮崎駿氏が近藤勝也氏の娘さんの写真を見て参考にしている写真もあります。身近にモデルがいたからこそ、あの作品の父娘愛はどこかリアリティを感じさせるものに出来上がったのでしょう。
『崖の上のポニョ』フジモトが人間をやめた理由は?
『崖の上のポニョ』で、フジモトは元々はノーチラス号に乗っていたアジア系乗務員だったものの、人間をやめて海の住人になりました。なぜ人間をやめたのか、その理由についてここでは2つの点に絞って検証してみます。
理由①人間を嫌いになったから
フジモトはなぜ人間をやめたのかが気になります。劇中でフジモトは「人間は海から命を奪い取るだけだ!」というセリフを吐いており、人間へ一種の恨みのような感情を抱いていることが感じ取れます。
どうしてそのような感情を持つに至ったのかは、あくまでも推測にすぎませんが、潜水艦の乗務員として勤務しているときに、ほかの船員たちの海への接し方に考えるものがあったのかもしれません。
潜水艦で深い海の底を巡っているときに、海が持つ神秘性に触れ、それと人間の持つ卑しさを比べてうんざりした可能性もあります。
そしてそこでグランマンマーレと出会い、恋に落ち、己自身が人間であることに嫌気がさして、人間をやめるという選択肢を選んだのでしょう。『崖の上のポニョ』の作品中でははっきりとは描かれていませんが、きっとフジモトが人間をやめた背景にはそんな感情があったに違いありません。
理由②グランマンマーレと恋に落ちたから
グランマンマーレは海の女神とも言える存在で、美しくたおやかなピンク色の髪を水中でゆらゆらとなびかせ、まるですべての海の生き物を包み込んでしまうような雰囲気で描かれています。
娘のポニョが人間になりたがっていることを知り、グランマンマーレはフジモトに「ポニョを人間にしてしまえばいいのよ」と言ってしまうところを見ても、懐の広さを感じさせます。
ポニョが人間になってしまうと、これまでのように気軽には会えなくなるにもかかわらず、ポニョの気持ちを考えているあたり、フジモトには到底かなわない大きくて暖かい心の持ち主であることがわかります。
そういった点に、フジモトは心惹かれ、恋に落ちたのでしょう。グランマンマーレは、これまで人間社会でギスギスとした生活を送っていたフジモトにとって、救世主のようにも思えたのかもしれません。
『崖の上のポニョ』フジモトに関する噂や謎
ジブリ作品には毎回都市伝説とも言える噂や謎がありますが、この『崖の上のポニョ』にもフジモトに関していくつかの噂や謎が挙がっています。ここではフジモトについての噂と謎についてチェックしてみましょう。事前に以下を読んでから作品を見ると、より一層楽しめることでしょう。
噂や謎①フジモトとトキは親子?
『崖の上のポニョ』を見た人の中では、「実はフジモトとトキは親子なのでは?」という説もささやかれています。2人の顔を見比べてみると似ていますし、人間付き合いが苦手なトキさんと、人間嫌いのフジモトは性格的な共通点も多いです。
物語の最後の方で、宗助が無事な姿を見て、普段はつっけんどんなトキさんが真っ先に宗助に抱き着いて喜んでいる姿を見ても、もしかするとフジモトの若い頃と宗助を重ねて見ているのではという考え方もできます。
噂や謎②なぜ除草剤をまいていた?
物語の最初の方で、リサが宗助と一緒に車に乗り込もうとしたときに、家の前の空き地で除草剤のようなものを撒いているのがフジモトです。そこでリサは、除草剤を撒かないように注意するのですが、フジモトが撒いているのは実は除草剤ではなく海洋深層水です。
ただ、なぜ海洋深層水を撒いているのかまでははっきりとしていません。陸地に上がって行方不明になっている愛娘のポニョが乾燥した地面でケガをしないようにという説があります。
また、フジモト自身がすでに人間ではないため、夏の熱いコンクリートの上を歩くには海洋深層水が必要だったからという説なども考えられます。
いずれにせよ、人間嫌いのフジモトが、海を象徴している海洋深層水を陸地に巻くことにより、「汚れた人間の住む世界を神聖な海の力で浄化したい」という気持ちが込められているとも取れます。
噂や謎③娘想いのお父さん?
ポニョは実の父であるフジモトのことを「悪い魔法使い」と呼ぶこともありますが、本当にそんな悪い人物なのでしょうか。実際に物語を通して見えるのは、「人間になりたい」という愛娘の行く末を心配して、できるだけ障害のない安全な人生を送ってほしいと願う父としての姿です。
ポニョを始め、魚の姿をした大勢の子供達を男手一つで大切に育てていますし、娘が陸地に行ったことが分かると、心配して海や陸地で探している姿もあります。最終的にはポニョの幸せのために、彼女が人間になることも受け入れ、宗助とも分かり合おうとしています。
自身が人間という存在に絶望して今の姿を選んだということで、大切な娘には人間になって下手な苦労をしてほしくないと願った結果、ポニョから見ると怖い存在になったと言えるでしょう。
噂や謎④海の中で生活できる理由は?
フジモトは魚ではないですし、元々人間だったので本来であれば水の中では呼吸ができず、生活できません。しかし海中で潜水艦のような家に住んでいる様子が、物語の最初の方で登場します。
水中にいるフジモトをよく見ると、大きな丸い泡のようなものを頭にかぶったり潜水艦の先頭を覆ったりしており、それで酸素を確保しているようです。海中の自宅では、いろいろな薬を調合したり、魔法も使えたりするので、水中でも生活できるよう工夫をしていると思われます。
『崖の上のポニョ』のフジモトは魅力的なキャラクター!
今回は『崖の上のポニョ』に登場するフジモトについてご紹介しましたが、いかがでしたか?フジモトは奇天烈な風貌をしていますが、その中身は愛娘を心配する愛情深い父親そのものです。
今回の記事を読みながら、今一度『崖の上のポニョ』の世界観を楽しんでみてください。今までとは違った視点で、物語が解釈できるかもしれません。